堅物君との長い付き合い
小学5年の遠足の前日に担任の先生から「服は普段着のままで」と指示されましたが、家に帰ると母が「明日はこれを着て行きなさい」と言われました。そこには真新しい霜降り色の半ズボン上下が用意されていたのです。私は即座に「先生が」と言いかけたのですが聞き入れてはもらえませんでした。親にすればその日のために節約して用意したもの、気持ちよく着せてあげたいの一心だったのだと思います。
私はその日の朝も「新しいのは着て行かない!」の一点張り、母は困り果てあきらめました。学校に着いて驚いたことは、ほとんど皆が買ったばかりの奇麗な服を着ていたからです。それでも私は後悔しませんでした。自分は先生の言ったことを守ったのだと内心強がりました。
それから2週間ほどたって遠足の写真がくばられ母に見せたところ、私の顔をニンマリと見つめ「ほら言ったとおりでしょう・・・」と言わんばかりにさとされました。それでも私は首を振りその場を逃げ出したのです。そのときの母の顔が今でも忘れられません。
あれから何十年も経ちますがこの融通のきかなさは変わりません。筋金入りの堅物だと諦めています。母があの世から「石頭が少しは柔らかくなったかな」と語りかけてくるようなこの頃です。「母ちゃんごめんね」が偽らざる気持ちです。